従業員エンゲージメントの分析アプローチ例
~平均スコア比較から一歩踏み込む具体策~

従業員エンゲージメントの分析アプローチ例~平均スコア比較から一歩踏み込む具体策~

従業員エンゲージメントは、平均スコアの比較だけで課題を捉えるだけではなく、様々な高度な分析も用いながら科学的に課題を捉えるアプローチがされるようになりました。

「経営層に対して説得力・納得感のある」課題抽出や改善優先順位の提示をするために、科学的に分析するアプローチが見られるようになってきています。

ただ、特に従業員エンゲージメント向上に携わる人事部門の方々からは、「そもそも、平均スコアの比較をするところから、どうやって深掘りした分析をすれば良いか分からない」というお声もお聞きします。高度な分析を進める前に、「一歩踏み込んだ分析は、どうすれば出来るか?」という課題感をお持ちの方もまだまだ多いように感じます。

本コラムでは、平均スコアの比較から一歩踏み込んだ分析を行うための分析アプローチを、基礎的な内容・応用的な内容と、具体例を交えながら解説します。

1.分析アプローチの具体例(基礎)

2.分析アプローチの具体例(応用)

3.まとめ

目次

分析アプローチの具体例(基礎)

まずは、一歩踏み込んだ分析をするための「基礎的なアプローチ」をご紹介いたします。ここでご紹介する基礎的なアプローチでは、表計算ソフトの集計やグラフ作成技術があれば誰でもすぐに取り掛かれ、特別な分析方法やシステムなどは必要ありません。

①「中立層」の割合が高い=改善余地が大きい可能性

「スコアの大きな違いは見られない」「中程度スコア同士の項目は、どう比較すれば良いか分からない」などの場合に、深掘りしていただきたい内容が回答結果における「肯定・中立・否定」の割合比率の確認です。

平均値で見ただけでは分からない、課題感や課題の大きさを把握するために、回答の「肯定・中立・否定の割合比率」(ポジティブ回答・中立回答・ネガティブ回答の割合比率)を確認することが有効となる場合があります。

(例えば、5段階評価の回答を、そう思う・ややそう思う:肯定回答、どちらともいえない:中立回答、ややそう思わない・そう思わない:否定回答として、それぞれの回答割合を把握する)


“中立層(中立回答)が多い項目”は、

  • 不満ではないが、納得もしていない
  • 条件が整えば肯定側に動きやすい


という意味で「改善効果を出しやすい」(改善余地が大きい)領域となる可能性があります。

不満層(低スコア)の解消に加え、中立層(どちらでもない)を肯定的側面(高スコア)に動かす、ことが、スコア全体を押し上げる効率的なアプローチになる場合があるのです。

中立層が多い項目

スコア差が見られない場合などに確認していただくと、課題の優先順位を決める一つのヒントになるかもしれません。

②「属性別」のギャップ=課題が異なる

全体を一律に並べた場合に見える課題と、細分化した属性別に見える課題は異なる可能性があります。

例えば、新卒とキャリア採用、本社と工場、管理職と非管理職など、一律では把握しきれない属性別のギャップを見ることで、「属性間の認識が大きく異なる」といった本質的な課題や「何が効くか?」といった具体的な施策の違いが想定できる可能性があるのです。

典型的に属性差が出やすいと想定されるのは、以下の属性などが例として挙げられます。

  • 若手   と ベテラン(理念共感など)
  • 新卒採用 と キャリア採用(相談しやすさなど)
  • 管理職  と 非管理職(仕事のやりがいなど)
  • 本社   と 拠点・工場(会社信頼など)
  • 正社員  と 非正規雇用(給与・待遇面など)

この属性差を紐解くことで、課題の解像度をさらに高めるヒントになる可能性も考えられます。例えば、「スコアには差がないけれども、属性差に大きなギャップがある」以下のような項目は、一見すると分からない本質的な課題が紐解かれた例であり、課題の解像度が高まった例となると思います。


管理職・非管理職の違い

この場合、「仕事へのやりがい」と「役職や立場を問わない意見交換ができる」は、平均スコアは大きく変わらないものの、管理職と非管理職では、属性差(属性別のスコアのギャップ)に大きな違いが見られました。
「仕事へのやりがい」が課題となるのは「非管理職」である(管理職では課題にならない)というのが本質である可能性があり、施策の検討内容も大きく変わっていきます。

分析アプローチの具体例(応用)

これまでのアプローチの例は、エンゲージメントサーベイ回答結果の基礎的な集計で可視化できる内容でした。ここからは、統計的な要素やひと手間かかる分析手法を含む、応用的なデータ分析の手法を、一部ご紹介いたします。

①「ペルソナ像」の傾向把握=全体傾向の解像度を上げる

エンゲージメントサーベイの回答結果の傾向が似ている人をグルーピングして、ペルソナ像として把握する分析アプローチでは、一つにまとまった「ぼんやりとした全体傾向」を「解像度の高い全体傾向」に変換出来る可能性があるアプローチです。

<分析例>

  • 新卒採用での入社者に最も多く存在するペルソナ「共感先行状態」は、理念戦略にはポジティブだが、仕事のやりがいが低い傾向がある。
  • やる気が無いわけではなく、仕事をやる意味と安全性が足りない状態のため、小さな裁量での成功体験(判断できる範囲を広げる)や、仕事の意味付け(この仕事が誰の何に貢献するか)などが、やりがいの増加に繋がる。
  • この層のやりがいの増加のためには「任せた理由を伝える」など、上司の関わり方を見直すことが効果的だと仮説を立て、施策案として「1on1の仕組み化・質の向上(基準作り)」などが挙げられた。


分析例の内容を導くためのプロセスを、具体的なサンプルイメージ図を使ってご説明します。

まず、同じ回答傾向でグループ分け(色分け)された回答者がどのような分布になっているかを表したのが下のサンプルイメージ図です。(縦軸:「理念戦略の共感」、横軸:「仕事のやりがい」)

まとまりの色付け

それぞれのグループを、「ペルソナ像」として一言で表した場合の名前を付け、割合を表示すると、以下のようなサンプルイメージ図となります。


グループ

各ペルソナ像について、特徴や想定される施策の方向や施策例を、実際のデータや別集計から見えている傾向などを元にまとめたのが、下のサンプルイメージ図です。

ペルソナ分析例

どういった層(ペルソナ像)が、どこにどれくらいの割合を占めているのか?(割合)を可視化することで、全体一律ではなく各ペルソナに合わせた課題や施策についての議論が出来るようになると思います。

(どの層を優先的に対策すべきか?優先する層の結果はどうなっているか?課題や施策はどんなことが考えられるか?など、具体的なイメージ像を持った議論)

全体傾向の解像度を高め「どういった層を見据えた課題抽出・施策検討をするか?」といった優先順位を検討する上で、組織状態や分析状況に応じて実施いただけると、有効な分析手法となるかもしれません。

②従業員エンゲージメント × 経営データ = 企業価値向上への繋がりの可視化

人的資本開示が強化された2023年から2025年の間に、企業は従業員エンゲージメントを“人事主導の施策”ではなく、経営KPIと連動して説明する経営データ として扱い始めました。

人的資本で示されている指針の中には、従業員エンゲージメントデータと経営KPIを連動させること(取り組みの目標やその進捗をモニターする指標を設定する必要性)が含まれます。

従業員エンゲージメントの状況や取り組みが「経営へのインパクト」として具体的な数値で把握出来るようになれば、「どこを重点課題として、どんな施策をすべきか?」といった議論が可能になると思われます。


「人的資本指標のモニターと情報基盤の構築」(出典:内閣官房「人的資本可視化指針」 p.39)

例えば、「財務的成果」(縦軸)と「E-KGI(エンゲージメントKGI=最も重要な指標)」(横軸)を掛け合わせ、全社の部署単位の分布を見た場合のサンプルが、下の図です。

財務的効果・E-KGIの4象限

どの部署(どのチーム)が、経営インパクトがありエンゲージメントも高い「成長エンジン」になっているのか?潜在的なポテンシャルを秘めているのはどこか?リスクを検討する必要があるのはどこか?残念ながら、無気力になっていると考えられるのはどこか・・・。

経営データを掛け合わせることで、従業員エンゲージメントの向上がゴールではなく、「企業価値向上に繋げる」本質的・具体的な議論が出来ると考えられます。

必要な情報やデータの紐づけなど、分析の難易度は上がりますが、目的・状況に応じて検討いただけると、企業価値向上を見据えた有効な分析となるかもしれません。

まとめ

本記事では「分析」に焦点を当てていますが、従業員エンゲージメントの改善優先順位は、分析結果だけで決められるものでは無いと考えられます。

  • 経営層の納得感や施策を推進する覚悟
  • どれくらいコストがかかるか?どれくらい経営へのインパクトがあるか?
  • 経営・現場の情報共有やすり合わせ
  • 施策実施のためのリソース(ヒト・モノ・カネ・情報・時間)


分析で大事なことは、様々な切り口での高度な分析を行うことではなく、「本質的な課題を、適切な手法で導くこと」と、「その結果を踏まえて、優先順位を決めるための議論ができるか?」だと思います。

記事でご紹介した手法を試してみていただくのはもちろんおすすめですが、分析手法に拘らず、本質的な課題を探索するための分析、次の議論に繋げるための分析を念頭に置いて分析を進めていただけると幸いです。