エンゲージメントサーベイとは?必要性や実施例も解説

エンゲージメント(engagement)とは「婚約」「成約」「約束」「契約」などの意味を持つ英単語です。企業においては、従業員の会社や組織に対する愛着心などの深いつながりの意味で使用されます。人的資本の可視化としても注目される「エンゲージメントサーベイ」について解説します。

1.エンゲージメントサーベイとは?

2.エンゲージメントサーベイの必要性

3.経営課題の解決に効果的なエンゲージメントサーベイを行うためのポイント

4.エンゲージメントサーベイの活用例

目次

エンゲージメントサーベイとは?

経営課題が深刻化する前に、社内アンケートなど社内調査を定期的に行うことで、経営課題の早期発見や解決のための取り組みが可能となります。 また、課題の把握や解決に早期に取り組むことで、会社の成長・発展を担う人材流出を防いだり、投資家や従業員などの各ステークホルダーの会社に対しての満足度を上げ、安定的な経営に繋がることが期待されます。

社内調査の代表的な例として、エンゲージメントサーベイがあります。
エンゲージメントサーベイとは、従業員に対して行う調査のことで、従業員が企業に対してどのようなイメージを持っているか、業務に対する意欲などを定量化することが可能です。

エンゲージメントサーベイの主な目的として、経済産業省主催の経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会「平成30年度産業経済研究委託事業(企業の戦略的人事機能の強化に関する調査)」第2回研究会資料によると

1)社員エンゲージメント(個人と企業の双方向的な関係性)の可視化
2)人材リテンション、個人のモチベーションや生産性の向上

の2点が挙げられています。(※1)

エンゲージメントサーベイの必要性

エンゲージメントサーベイを行うメリットとして3つ挙げられます。

1)離職率の低下につながる対策を打つことができる
エンゲージメントサーベイにより、従業員の会社に対するイメージや業務に対する意欲、従業員が抱えている課題を可視化、定量化することで、これまで企業で実施してきた施策の効果測定や、課題解決のための新たな施策実施を行うことが可能になります。
従業員の声に耳を傾け、職場環境の改善に取り組むことで、離職率の低下につながることが期待されます。


2)経営環境が変化する中で、対処すべき経営課題の優先順位をつけることができる
少子高齢化による労働者不足や、新型コロナウイルスなどを契機に広がったリモートワークなどの多様な働き方に加え、ダイバーシティ&インクルージョンや人的資本経営、ESG投資など企業経営を取り巻く環境が大きく変化する昨今、企業の持続的な成長のために、これらの課題に早急に対応していくことが求められます。

しかし、全ての経営課題を一度に対応することは難しく、さらにヒト・モノ・カネなどの企業リソースは限られています。そこで、エンゲージメントサーベイを実施し、取り組むべき経営課題を可視化・定量化することで、優先順位をつけ解決に取り組むことが可能になります。


3)人的資本経営の観点を含め、企業の安定的な経営、持続的な成長へつながる

2020年に経済産業省により発表された「人材版伊藤レポート」でも取り上げられた「人的資本経営」。経済産業省において、「人的資本経営」は以下のように定義されています。

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
(出典:経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」)

エンゲージメントサーベイを実施し、企業の人材戦略の効果測定を行ったり、従業員が抱える課題を可視化・定量化することで、課題解決のための施策実施が可能となり、人材の価値を最大限に引き出し、企業の価値向上につながることが期待されます。

また、エンゲージメントサーベイで可視化・定量化した指標を投資家や従業員をはじめとする各ステークホルダーに発信することで、企業の信頼度が高まり、企業の安定的な経営、持続的な成長に繋がることが期待されます。

経営課題の解決に効果的なエンゲージメントサーベイを行うためのポイント

エンゲージメントサーベイを行う際の注意点として、従業員の負担にならないということが挙げられます。
設問数の多さや、回答にかかる時間の長さで従業員の負担が大きくなると、回答の精度が下がったり、正確な回答を得られない可能性があります。

そのため、限られた質問項目で企業課題を特定できるよう質問項目の内容や文章を精査する必要があります。また、企業が一般的に抱えている課題を予め把握するなど、自社が抱えている課題の仮説を立て、質問項目を作成することが重要です。

エンゲージメントサーベイの活用例

エンゲージメントサーベイを実施し、経営に活用している企業事例を3つご紹介いたします。

1)伊藤忠商事
伊藤忠商事では、内部資本の「人的・組織資産」の分野においてエンゲージメントサーベイをKPIとして設定し、3-4年に一度の実施を通して継続的なモニタリングを行っています。

具体例として、エンゲージメントサーベイの結果をもとに、特に若手・女性社員の価値観の多様化に対応した施策を導入するなど、労働生産性と企業価値の向上を目指す取り組みを行っています。

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(出典:伊藤忠商事 統合レポート2022 P92,93)

また、継続的なモニタリングとして、前回実施分のデータとの比較も行っています。

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(出典:伊藤忠商事 統合レポート2022 P127)

2)塩野義製薬
塩野義製薬では、働きやすくやりがいを持てる職場環境の整備に向け諸制度の改定、改革を実施しています。また、さらなる職場環境改善を図るため、エンゲージメントサーベイの結果などを用いて制度拡充の成果確認や課題とニーズの把握を行っています。

継続的な職場環境の改善に取り組むことで、育児休業取得率や女性マネジャー比率が上昇しています。

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(出典:塩野義製薬 統合報告書 2022 P52)

3)商船三井
商船三井では、組織開発を目的として2014年から「組織風土アセスメント」を実施し、働き方や構成メンバーの多様化により、2022年度より「エンゲージメントサーベイ」を実施しています。

頻度は年に1回(毎年12月)、商船三井従業員、及び国内外グループ会社勤務者(海外グループ会社は2023年度より実施予定)を対象とし、Webサイトによるアンケート方式(回答は5段階評価)で実施、初回開催の2022年は81%の回答率となっています。(※2)

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(出典:商船三井ホームページ 「サステナビリティ」ページ、「Human & Community」内「エンゲージメントサーベイ」

上記の経緯を踏まえ、商船三井が公表した2023年の「統合報告書 MOLレポート」によると、商船三井グループが掲げる「HCビジョン」のアクションプランである「HC Action 1.0」の2025年度末までの達成目標において、エンゲージメントサーベイの回答率(国内外グループ全体)を90%に、また、エンゲージメントサーベイにおける「エンゲージメント」のKPIスコアが向上した組織の割合(国内外グループ全体)を70%としています。(※3)

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(出典:統合報告書 MOLレポート 2023年最新版 P33)

まとめ

本記事では、エンゲージメントサーベイの必要性や実施にあたってのポイント、企業での実施例を取り上げました。様々な経営課題が企業を取り巻く中で、エンゲージメントサーベイの実施によって、課題の可視化・抽出・解決施策の検討を通して、更なる企業価値向上を目指しましょう。

(※1)出典:2019年2月15日開催、経済産業省主催の経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会「平成30年度産業経済研究委託事業(企業の戦略的人事機能の強化に関する調査)」第2回研究会資料 P9

(※2)出典:商船三井ホームページ 「サステナビリティ」ページ、「Human & Community」内「エンゲージメントサーベイ」

(※3)出典:統合報告書 MOLレポート 2023年最新版 P33