「知・経験」のD&Iとは?メリットや実施例も解説

D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)とは

D&Iとは、「ダイバーシティ(Diversity)」と「インクルージョン(Inclusion)」をかけ合わせた言葉です。
「ダイバーシティ」とは英語で「多様性」を指す言葉で、年齢や国籍、性別、障がいの有無、宗教・信条、価値観、性的指向、職歴、趣味趣向などが異なる人々の属性を尊重する考え方を指します。
また、「インクルージョン」とは英語で「包含、包括」を指す言葉で、ビジネスにおいては、多様な人材の個々の特性が活かされて企業活動が行われている状態を指します。
「公平」や「公正性」を意味する「エクイティ(Equity)」を含めたDE&Iの概念を使用されるケースもあります。


ダイバーシティの考え方は非常に広く、大きく2つに分けることができます。

1)表層的ダイバーシティ
年齢、性別、国籍、人種など、比較的外から見て認識しやすいもの

2)深層的ダイバーシティ
価値観、職歴、宗教、パーソナリティ、趣味趣向、知・経験など比較的外から見て認識しづらいもの


今回は、ダイバーシティの多くの観点の中から「知・経験」を取り上げ、企業における「知・経験」のD&Iについて、取り巻く状況やメリット、事例についてご紹介します。

D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)活性化の背景

D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)が注目されている主な背景として、以下が挙げられます。

1)少子高齢化による影響
パーソル総合研究所の推計によると、少子高齢化などの影響で2030年時点で人手が「644万人」不足するとされています。(※1)限られた人口で労働力不足を少しでも解消するには、従業員のライフステージが変化しても働きやすい環境を整えたり、定年退職した従業員を再雇用するなどの施策を行うことが重要となっています。

2)コロナ禍による、働き方の多様化
新型コロナウィルスの影響でリモートワークなどの新しい働き方が広がると共に、キャリアの考え方が多様化しています。また、終身雇用制度が崩壊し、転職する人が増えたり、新型コロナウィルスの影響で失業した人が再就職をするなど、人材の流動性が高まっています。 また、定年退職以外の退職者を示す「アルムナイ」のネットワークを活用し企業価値向上を試みる企業も出てきています。

「知・経験」のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)とは

経済産業省の「人的資本経営の実現に向けた検討会」の報告書である「人材版伊藤レポート2.0」には「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」について以下のような記述があります。

個々人の多様性が、対話やイノベーション、事業のアウトプット・アウトカムにつながる環境にあるのか(「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」)

(出典:経済産業省 「人材版伊藤レポート2.0」 P3)

事業の「アウトプット」、「アウトカム」については、関連した概念の「インプット」とともにレイヤーズ・コンサルティングによると以下のように定義されています。

  • インプットは、アウトプットするために必要なもの、つまりリソース(ヒト/モノ/カネ/情報等)
  • アウトプットは、インプットを活用し、活動、プロセスを踏むことで生み出された結果
  • アウトカムは、アウトプットによってもたらされる財務資本、非財務資本への影響・成果

(出典:レイヤーズ・コンサルティング【「アウトカム」×「長期」の2つの視点での人的資本開示】 )

つまり、「知・経験」のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)は、様々な経験や専門性、価値観を持った人材を企業に取り込み(ダイバーシティ)、さらに多様な人材がその能力を活かして活躍することで、財務資本、非財務資本への影響・成果につなげられる環境にあるのか(インクルージョン)という考え方になります。

「知・経験」のD&Iが企業にもたらすメリット

企業が「知・経験」のD&Iを取り入れると、どのようなメリットが考えられるのでしょうか。

1)イノベーションの創出
多様な専門性や経験、価値観を持った人材が多く集まることで、これまでにないイノベーションが生まれ、製品やサービスを改善したり、企業にとって新たな価値を生み出すことが期待されます。

2)生産性の向上
様々な経験を持つ人材が集まることで、業務フローなどを客観的に見ることができる人材が増えたり、業務戦略、経営戦略に外部の新たな視点を加えることで、より企業の成長に効果的な施策を実行できることなどが期待されます。

また、多様な人材が活躍でき、パフォーマンスを発揮できる環境を整えることで、既に在籍している従業員も含めて業務の生産性やパフォーマンスの向上が期待されます。

3)中長期的な企業価値の向上
経済産業省の「人的資本経営の実現に向けた検討会」の報告書である「人材版伊藤レポート2.0」にはダイバーシティに関連して、以下のような記述があります。

中長期的な企業価値向上のためには、非連続的なイノベーションを生み出す ことが重要であり、その原動力となるのは、多様な個人の掛け合わせである。
このため専門性や経験、感性、価値観といった知と経験のダイバーシティを 積極的に取り込むことが必要となる。

(出典:経済産業省 「人材版伊藤レポート2.0」 )

「知・経験」のダイバーシティを企業に取り込むことで、非連続的なイノベーションを生み出す機会が生まれ、中長期的な企業価値の向上に繋がるという意味で、企業にとって大きなメリットとなります。

「知・経験」のD&Iを活性化させるために効果的な施策・事例

企業の「知・経験」のD&Iを活性化させるためには、どんな施策が有効なのでしょうか。以下に実践例と共にご紹介いたします。

1)キャリア採用や外国人の比率・定着・能力発揮のモニタリング
「人材版伊藤レポート2.0」によると、このテーマに関連して以下のような記述があります。

〇CEO・CHROは、イノベーションの創出やグローバル展開の加速に向けて、女性活躍を促すことに加え、多様な知・経験を持ったキャリア 採用者、外国人材を取り込む。その際、登用すべき地位・役職のレベルについても、その能力が最も発揮されるよう検討を行う。
〇また、必要な範囲においてKPIを活用し、当該人材の定着や能力発揮の状況を定期的に把握し、多様な人材が活躍しやすい風土を醸成する。

(出典:経済産業省 「人材版伊藤レポート2.0」 )
※CHRO:「Chief Human Resource Officer」の略で最高人事責任者を指します。

キャリア採用や外国人の雇用実績などの数値面だけではなく、そのような多様なバックグラウンドを持った人材が、活躍し企業価値の向上につなげられるよう、登用すべき地位や役職の検討を行い、業務への定着や、能力発揮のモニタリングをすることが重要です。

事例として、「ヘルス・ビューティケア」事業などを行う花王株式会社は、「D&I推進部」を設置しており、人事部・D&I推進部・現場が一体となり、「D&I視点の人財開発」を推進しています。経営方針を現場単位に落とし込み、従業員支援を行っています。
※花王では2023年現在、「D&I」に「エクイティ:公平/公正性」を追加した、「ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DE&I)推進活動」を行っています。

(出典:花王サステナビリティレポート2023  P211)

また、建築材料、住宅設備機器等の製造・販売を行う株式会社LIXILは、従業員を主体としたEmployee Resource Group (ERG)をグローバルで立ち上げ、特性、バックグラウンドまたは生活経験に基づくメンバーで構成されるグループにおいて従業員のつながりを強化することでインクルージョンの実現を図るとともに、この活動の推進のために執行役を設置し経営幹部がコミットしています。

(出典:LIXIL 統合報告書2022  P46)

2)課長やマネージャーによるマネジメント方針の共有
同じく、「人材版伊藤レポート2.0」によると、このテーマに関連して以下のような記述があります。

CEO・CHROは、「知と経験のダイバーシティ&インクルージョン」の実現に向け、課長・マネージャーが、多様な人材を受け入れて組織を運営する能力を高める。
当該スキルの養成に向け、各課長・マネージャーが互いのマネジメント方針を参照し、優れた工夫を相互に学び合う環境を整備する。

(出典:経済産業省 「人材版伊藤レポート2.0」 )

様々なバックグラウンドを持った人材を採用するにあたり、その個性や能力をつぶすことなく最大限に活かせるよう、現場で統括・管理を行う課長・マネージャーの組織運営能力が重要となります。

また、従業員1人ひとりに対するコミュニケーションの取り方、業務の中で起こる問題解決ケースだけでなく、チームで意見が対立した場合にどのように対話をし、プラスの結果につなげるかなどの実践例や優れた工夫を共有し、ノウハウとして蓄積していくこと、また、企業による課長やマネージャーがそのような施策に取り組みやすいような風土の醸成、仕組みの整備も重要です。

3)アルムナイネットワークの活用
アルムナイについては、経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会」にて以下のように議論されています。

検討会では、人材の流動性を高めるという意味で、アルムナイは非常に価値のある人材である、ということが議論されていました。本検討会の議論では、アルムナイとは、自社での勤務経験があり、他の企業等の、もう1つ別のフレームで知・経験を培い自社に再入社した人材です。一度、辞めてもまた戻りたいというコミットメントがあり、目的意識を持ち、貢献したいポイントが明確にあることが期待できる。アルムナイの採用、アルムナイネットワークが機能しているという事例の共有もありました。

(出典:株式会社日本能率協会マネジメントセンター 「人的資本経営の探求」内【「知・経験のダイバーシティ」を結果につなげるには前編 谷口 真美氏】 )

アルムナイは、自社での勤務経験があるため即戦力になるだけでなく、「戻りたいと思える会社」という企業にとってプラスのイメージをもたらすことができます。
また、アルムナイネットワーク内で様々な人脈や関係性が構築され、企業としてこれまでになかった新しい繋がりが生まれ、新たな市場へのアプローチや外部協力者の獲得など、企業活動においてプラスの効果をもたらすことが期待されます。

事例としては、中外製薬株式会社が他社・他業界を経験した異能人材の再雇用を目的とし、アルムナイ制度を設立。アルムナイのニーズに合わせたイベントを開催したり、社内報やアニュアルレポートなどを通じた社内発信により、約1年間で再入社者3名を実現しています。

また、トヨタ自動車株式会社ではキャリア入社者が早く活躍できるようオンボーディングの取り組みとして、定期的なアンケートなどで声を吸いあげ、必要に応じて人事施策へ織り込んでいます。また、アルムナイ専用のコミュニティサイトやアルムナイ採用の特設ページを設置するなどの取り組みを行っています。

アルムナイネットワークの活用のためには、まずアルムナイ同士やアルムナイと企業の交流が持てるイベントを企画したり、会社の状況をアルムナイに対して発信する場を作るなど、接点を持つことが重要です。また、社内でもアルムナイ活動の浸透や発信を行うなど、アルムナイが再就職した際にも活躍できる環境を整えることが重要です。

まとめ

今回は、D&Iの中でも「知・経験」のD&Iについて取り上げました。取り組みを行う上で重要なのは、D&Iに関連する数値を設定・達成するだけでなく、多様な人材が能力を発揮し活躍できる環境を整え、最終的に企業価値につなげていくことです。
そのためには、「知・経験」のD&Iによって、どのように企業価値につなげるかを全体的に設計し、施策を実行することが重要です。

※1:パーソル総合研究所 労働市場の未来推計 2030
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/roudou2030/